芸術か!? 建築か!? 奇妙な家の正体は?
東京都三鷹市の幹線道路沿いに突如姿を現す奇抜な建築物。
数え切れないほどの色と独特なフォルムで成り立つその建物は、芸術家であり、建築家でもあった荒川修作とそのパートナー、マドリン・ギンズが2005年に完成させた「三鷹天命反転住宅 イン・メモリー・オブ・ヘレン・ケラー」です。
「イン・メモリー・オブ・ヘレン・ケラー」というサブタイトル、「死なないために」というコンセプトはいったい何を意味しているのでしょうか?
建物の中を案内していただきました。
心をざわつかせる極彩色の住宅
「天命反転住宅」という奇妙な名を持つ突拍子もない建物があるらしい。
知っている人は知っている、世界的に有名な建築物らしい。
どうやら、実際に人が住んでいる一般の集合住宅らしい。
そんなうわさを聞きつけ、この目で見るためにJR中央線の三鷹駅からバスに乗りました。
幹線道路沿いの停留所で下車すると、目の前には一言では言い表せない存在感を放つ建物が立っています。
何もかもが“普通”ではない中で、まず目に飛び込んでくるのは赤、黄色、緑、青、オレンジ、ピンク……という数え切れないほどの色。むき出しの配管に至るまでが、数々の色で塗り分けられています。
建物の形も奇抜としか言いようがありません。
3階建ての3棟から成るその建物の壁面はフラットではなく、丸や四角の一部屋一部屋が、まるで独立した建物のようにでこぼこと飛び出しているのです。それは、なんとも不思議な光景です。
かといって、“アミューズメントパークのような”とか“おとぎ話に出てくるような”といった言葉は思い浮かびません。「きれい!」「かわいい!」「おしゃれ!」と歓声を上げる人も、いないのではないでしょうか。
そのようなありふれた言葉ではひとくくりにできない、心をざわつかせる何かがここにはあります。けれども、この建物がこうして立っていることに、不思議と違和感はないのです。それどころか、どこか懐かしいような、思い出せそうで思い出せない遠い昔の記憶をたぐり寄せたくなるような、ノスタルジックな気持ちになっていることに驚きます。
ここが一般の住宅であることをつい忘れてしまいそうになるのですが、部屋の窓から透けて見える花瓶の花や、雑多に積まれた本などからは、たしかに生活のにおいが漂っています。
現在(2017年5月)、全9戸のうち賃貸用の5戸は満室とのこと。残りの4戸のうち2戸をショートステイ用に、2戸を管理事務所として使っているそうです。
この家が完成したのは2005年。
構想を練ったのは、世界的に活躍した芸術家であり建築家でもあった荒川修作とそのパートナー、マドリン・ギンズです。
彼らはいったい何を目的に、このような住宅を建てたのでしょうか。
建物のタイトル「天命反転」、そしてサブタイトル「イン・メモリー・オブ・ヘレン・ケラー」とは、何を意味しているのでしょうか? コンセプトである「死なないためには?」とは、この建物とどのような関係があるのでしょうか?
そして、ここではいったいどのような人たちが、どのようなことを感じながら暮らしているのでしょうか?
すべてが霧の向こうにぼんやりとかすんだまま、いよいよ「天命反転住宅」の中に入ることになりました。
Reversible Destiny Lofts Mitaka – In Memory of Helen Keller, created in 2005 by Arakawa and Madeline Gins, © 2005 Estate of Madeline Gins.
参考
三鷹天命反転住宅パンフレット(荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所 発行)
『荒川修作の軌跡と奇跡』(塚原史著、NTT出版、2009年)
映画『死なない子供、荒川修作』(監督:山岡信貴、制作:リタピクチャル、2010年)
公開日:2017年09月05日
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棚澤明子
フランス語翻訳者を経てフリーライターに。ライフスタイルや食、スポーツに関する取材・インタビューなどを中心に、編集・執筆を手がける。“親子で鉄道を楽しもう”というテーマで『子鉄&ママ鉄の電車お出かけガイド』(2011年・枻出版社)、『子鉄&ママ鉄の電車を見よう!電車に乗ろう!』(2016年・プレジデント社)などを出版。TVやラジオ、トークショーに多数出演。ライフワーク的な仕事として、東日本大震災で被災した母親たちの声をまとめた『福島のお母さん、聞かせて、その小さな声を』(2016年・彩流社)を出版。