テレワークの普及で、都心に住む必要性が失われつつあります。
実際に「都心から少し離れてもいいから、広い家に住みたい」と考えるようになった方も多いですよね。
しかし、いざ住み替えるとなると、都心か郊外か悩むものです。
そこで今回は都心と郊外の暮らしを比較して、あなたにとってメリットが大きいのはどちらなのか判断するポイントを解説します。
コロナによる住まいの意識変化
これまでは「職住近接」という言葉があるように、なるべく都心にある職場の近くに住まいを構えるスタイルが定番でした。
特に今の20~30代は、仕事とプライベートのバランスを大切にする世代だと思います。そのため、通勤時間はなるべく短縮して、その分家族や趣味の時間に充てたいという方も多かったのではないでしょうか。
しかし新型コロナウイルス感染症の影響で、職場へ通勤する必要のない「テレワーク」が一気に普及。そうなると当然「家賃や物価の高い都心に住む必要はないのでは?」という疑問も出てきますよね。
実際に、これまで定年退職を迎えたシニア世代が中心であった地方移住ですが、コロナ禍では若い世代を中心に地方移住への関心が高まっています。
出典: 「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」よりP23「地方移住への関心」(内閣府)を加工して作成
内閣府の調査によると「地方移住について強い関心がある・関心がある・やや関心がある」という方は全体の35.1%。
これが東京23区に住む20歳代では43.0%と、3人のうち1人が地方移住への関心を高めていることが明らかになりました。
また、2020年10月にカーディフ生命が行った調査では、テレワークの頻度によって意識に変化が起きていることが数字として表れています。
出典: 「第2回 生活価値観・住まいに関する意識調査」(カーディフ生命保険株式会社)
テレワークの頻度が少ない方は、住宅の検討場所は都心派が57.6%と半分以上を占めています。
しかし、半分以上テレワークで働いている方は、「都心派45.7%、郊外派54.3%」と結果が逆転。
通勤メインで働かれている方は都心を希望し、通勤頻度が低い方ほど郊外を希望されるという傾向が見てとれます。
「都心」と「郊外」の定義
ここで1つ気になるのが、都心と郊外の境目についてです。どこからが都心で、どこからが郊外なのか、はっきりさせたいですよね。
辞書によると「都心=都市地域の中心部」とされていますが、実は両者に明確な線引きはありません。
「東京都の中心部」を都心と呼ぶこともありますが、この記事では「都心=東京に限らず、大阪や名古屋などの一定規模の都市の中心部」と定義します。
では、都心からどのくらい離れると「郊外」といえるのでしょうか。
東洋経済オンラインによると、郊外かどうかは「マンション事業が可能か」という視点で判断できるとのこと。都心から一定以上離れると、世帯数・平均年収が都心に比べて下がるエリアがあり、そこからが郊外ということになるそうです。
具体的な距離でいうと、首都圏では「都心からおよそ25km」が分岐点の目安といわれています。
都心 | 郊外 |
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出典: 「東京の鉄道、「都会」「郊外」の境目はこの駅だ」(東洋経済オンライン)
都心に住むメリット・デメリット
では、都心に住むメリットとデメリットを整理してみましょう。
都心に住むメリット | 都心に住むデメリット |
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それぞれ詳しく解説していきます。
都心に住むメリット
都心に住む最大のメリットは、やはり通勤時間を短縮できることでしょう。
仮に片道45分の通勤時間を減らすことができれば、1日あたり1.5時間×20日間=1ヵ月あたり30時間もゆとりが生まれます。
その分睡眠をしっかりとって仕事の疲れを癒したり、家族との団らんや趣味の時間を増やしたりできますね。
また、子育て中の共働き世帯にとっては、遅い時間まで働けるというメリットも大きいでしょう。
たとえば、保育園のお迎え時間のリミットが18時半であり、会社から保育園まで1時間かかるとすると、17時過ぎには退社しなければなりません。こうなると時短勤務や延長保育の対応が必要です。
しかし会社と自宅や保育園が近ければ、18時まで勤務時間を延ばすことができます。9時~18時といったフルタイムでの勤務が可能になり、世帯収入が増やせる場合も多いでしょう。
夫婦で子供の送迎や家事が分担しやすく、子供の急な発熱でも会社からすぐ駆けつけられるなどのメリットもあります。
また都心暮らしのメリットとして、ショッピング施設や映画館、スポーツジムなどが充実していることを挙げる方も多いです。
仕事帰りに習い事や映画に立ち寄るなど、休日だけでなく平日の空き時間もアクティブに過ごすことができますね。
都心はバスや電車など交通網が発達しており車なしで暮らせるので、高齢になってからの生活も安心です。
子供が通う学校や塾など、教育の選択肢も広がるでしょう。
都心に住むデメリット
反対に、都心暮らしのデメリットについても考えてみましょう。
やはりみなさん最初に思い浮かべるのは、住居費の高さではないでしょうか。
そこで今回は例として、都心(新宿区)と郊外(八王子市)の家賃を比較してみます。
新宿区 | 八王子市 | 差額 | |
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専用住宅の1畳あたり家賃(1畳=1.62m2) (※1) |
6,431円 | 3,426円 | 3,005円 |
ファミリー向けマンション(70m2) | 約27万8,000円 | 約14万8,000円 | 約13万円 |
単身者向けマンション(25m2) | 約9万9,000円 | 約5万3,000円 | 約4万6,000円 |
※1 出典: 「H4104 専用住宅の1畳当たり家賃(円)」(2023年)(政府統計の総合窓口(e-Stat))
「市町村データ>データ表示>東京都>新宿区・八王子市を選択>「H居住」を選択>H4104専用住宅の1畳あたり家賃(円)」でデータが閲覧できます。
ファミリー向け物件でスタンダードなのが、70m2程度の3LDKマンション。間取りとしては「リビング+寝室+子供部屋2部屋+水回り」といったイメージです。
都心(新宿区)でファミリー向けマンションを借りると、家賃相場は1ヵ月あたり約27万8,000円。なかなか一般家庭に手の届く金額ではありません。立地を重視するなら、広さや部屋数、築年数などあきらめることが出てくるでしょう。
一方、郊外(八王子)のファミリー向けマンションの家賃相場は1ヵ月あたり約14万8,000円。
都心との差額は1ヵ月あたり約13万円となります。
単身者向けマンションの標準的な広さは、ワンルームや1K、1DKといった間取りを想定すると25m2程度です。
この場合も上表のように都心と郊外の家賃相場を比較した結果、1ヵ月あたり約4万6,000円の差額となりました。
この価格差の分だけメリットがあると思える方には、都心暮らしが向いているでしょう。
また、大勢の人であふれるといった都心ならではのストレスも気になる方は多いのではないでしょうか。
どこへ行くにも電車が混雑していたり、飲食店で行列に並ばなければならなかったりと、知らず知らずのうちにストレスをためてしまうこともあるでしょう。
子育て環境としては、都心は文化施設や教育施設は多いものの、小さい子供がのびのびと遊べるような広い公園は多くありません。
車がないと、週末に自然の多い場所へ行くことも難しくなります。
郊外に住むメリット・デメリット
次に、郊外暮らしのメリットとデメリットを見ていきましょう。
郊外に住むメリット | 郊外に住むデメリット |
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郊外に住むメリット
郊外に住むメリットは、なんといっても住居費が安いことです。
郊外では、都心での1LDKと同じ家賃で2LDKの広い部屋を借りられたり、都心ではなかなか難しい庭付き一戸建ての購入が叶えられたりします。
下図は2022年12月に行われた調査で、新型コロナウイルス感染症拡大によって住宅に求める条件がどのように変化したかを示したものです。
出典: 「『住宅購入・建築検討者』調査(2022年12月)」よりP29「3.コロナ禍拡大による住宅に求める条件の変化」(株式会社リクルート)
テレワークの頻度が増えると、仕事専用スペースや多くの収納スペースが必要になります。自宅で過ごす時間が長い分、広いリビングや部屋数が欲しい、庭が欲しいなどの希望も出てくるでしょう。
こういった住まいの広さや快適性の条件は、住居費の高い都心部ではなかなか叶えられないので、郊外ならではのメリットだといえます。
郊外の広い家であれば、夫婦それぞれの仕事部屋を持つことができ、家族全員で長い時間過ごしても狭く感じることはありません。
庭付き一戸建てなら子供を庭で遊ばせたり、プールやバーベキューで息抜きをしたりと、おうち時間が増えてもストレスが少なく過ごせるでしょう。
また郊外には、山や海といった自然もすぐ近くにあることが多いです。子育て中の方やアウトドアが趣味の方にとって、キャンプや釣りへ気軽に行けるのは、郊外暮らしの大きな魅力ですね。
郊外に住むデメリット
郊外暮らしでデメリットとなるのは通勤時間です。
完全テレワークなら問題ありませんが、通勤頻度が高くなれば不便に感じるかもしれません。
エリアによっては車ありきの生活になるため、車の維持費や駐車場代で出費が増えることもあります。
たしかに子連れでの車移動は電車移動に比べ、周りを気にせずおしゃべりできたり、荷物が多くても問題なかったりとストレスは少ないでしょう。しかし、子供がある程度大きくなったとき、車社会の場合、子供が1人で外出しにくいというデメリットが発生するかもしれません。
都心と比較すると、郊外は学校や習い事などの選択肢も狭くなってしまいます。
また持ち家を購入される際に気をつけたいのが、売却や賃貸についてです。
都心に比べて郊外の物件はニーズが少ないため、手放したい時に売却しづらい傾向があります。
将来的に住み替えの可能性がある場合、郊外の中でも売却がスムーズな駅の近くや人気のエリアを選ぶとよいでしょう。
都心か郊外かで迷ったときに考えるべきポイント
最後に、自分が都心と郊外どちらが向いているのか見極めるポイントを3つに分けてまとめます。
物件価格と住宅ローンの返済額
都心に行くほど家賃や物件価格は高く、郊外は安い。それは当然ですが、気になるのは「具体的にどのくらい価格差があるのか?」ですよね。
もちろん住居費は物件によって変わりますが、今回は目安として都心・郊外で中古マンションを購入するときの住宅ローンの返済額をシミュレーションしてみます。
SUUMOジャーナルによると、JR中央線の都心・郊外の中古マンション価格相場は以下のとおりです。
【郊外】(西八王子~日野):約2824.5万円~2,980万円
出典: 「【JR中央線】中古マンション価格相場が安い駅ランキング2023年版(東京-高尾32駅)。吉祥寺が新宿よりも高額に」(SUUMOジャーナル)
ここからおおよその中央値を割り出すと、都心4,700万円、郊外2,800万円。
「頭金500万円・ボーナス払いなし・返済期間35年・金利0.5%・元利均等返済」という条件で計算すると、それぞれ住宅ローンの返済額は次のようになります。
【郊外】物件価格2,800万円、頭金500万円→毎月返済額6万円
出典: 「借入希望金額から返済額を計算【フラット35】」(住宅金融支援機構)
住宅ローンの返済額は、都心のマンションの方が毎月5万円高くなる計算です。また都心では物件価格が高い分、毎年支払う固定資産税も高くなると考えられます。
この価格差を見て、どのように感じるかは人それぞれだと思います。
「そんなに出費が抑えられるなら郊外がいい」と考える方もいれば、「思ったほど差額は少ないので都心がいい」と考える方もいるのではないでしょうか。
広さ重視or利便性重視
住まい選びの基準はさまざまですが、予算も広さも立地もすべての条件を満たす物件はなかなかないものです。
広さを重視して郊外を選ぶのか、利便性を重視して都心を選ぶのか決めなければなりません。
このとき考えるポイントは大きく分けて3つです。
POINT 1:家族構成
単身者や夫婦2人暮らしであれば、通勤しやすさの優先順位が高めになるでしょう。
小さい子供がいれば、住まいの広さと教育環境のどちらを優先させるべきか考えることも重要になってきます。
POINT 2:働き方
テレワークがほとんどという方は郊外の不便さを感じにくいですが、テレワークができない仕事に従事している方にとって職場近くの住まいは魅力的です。
また、テレワークをきっかけに郊外へ移住したとして、これから先もずっとテレワーク中心の生活が続くとは限りません。5年後、10年後の働き方についても考える必要があるでしょう。
POINT 3:個人の考え方
静かな環境とにぎやかな環境どちらが好きなのか。自然豊かな環境がいいのか、新しい物に囲まれた刺激的な生活を求めているのか。
ご自身がどのようなライフスタイルを求めているのか、住まい探しをきっかけに改めて考えてみると良いでしょう。
将来的な住み替えの可能性
今回購入される物件を終の棲家と考えるのか、住み替えを前提とするのかも重要なポイントです。
都心の物件は売却や賃貸に出しやすいため、転勤がある方や、子供が巣立った後にコンパクトな物件を住み替えたい方にとっては大きなメリットになるでしょう。
郊外でも資産価値をなるべく維持したいのであれば、ブランドイメージのあるエリアを選ぶことも1つの手です。
都心へのアクセスが良いエリアや、再開発によって街並みが一新されたエリアなどはニーズが高いため、郊外であっても売却時に目減りしにくいでしょう。
理想のライフスタイルに合わせた住まい選びを
今回は都心と郊外のメリットとデメリットを解説しました。
都心暮らしの最大のメリットは交通の利便性で、通勤時間が短縮でき生活にゆとりが生まれます。
しかし、都心の住居費は高いため、テレワークの頻度が高い方やファミリー世帯など住まいに広さや部屋数を求めている場合は、郊外暮らしでのメリットが大きくなるでしょう。
また、将来的な住み替えを視野に入れて持ち家を購入する場合は、都心の物件の方が売却がスムーズという側面もあります。
郊外であっても人気エリアを選べば、売り手や借り手が決まりやすいでしょう。
都心と郊外どちらの暮らしが向いているかは、家族構成や理想とするライフスタイルによってさまざまです。
資金計画や働き方、子育て環境やご自身の価値観などを踏まえて、都心か郊外かを検討しましょう。
今の暮らしだけでなく、将来的なライフスタイルや資産価値についても考えることが大切です。
公開日:2021年04月09日
更新日:
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村田日菜子
建築学科卒業後、住宅専門のライターに。住まいづくりのノウハウから、住宅ローンや税金といったお金のことまで、住宅・建築ジャンルの記事を多数執筆。住まいにまつわる疑問やお悩み、むずかしい制度や法律も、分かりやすくお伝えします。