住宅の住み替え、買い替えのときに使える税金の特例とは?

住宅の住み替え、買い替えのときに使える税金の特例とは?

小峯洋子(こみねようこ)

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おうちを買う前に知っておきたい!「住宅購入や住居に関する税制・法律・手続き」第4回

日々の生活で大切な三大要素の衣食住。おうち時間を充実させるため、よりよい「住」環境を求めて住宅の購入を検討している人もいるでしょう。
住宅購入は人生の中でも指折りの大きな買い物です。そのため費用を少しでも抑えたいと考えるのは当然のことでしょう。
国は、良質な住宅取得を促進することで景気回復を図るとともに、環境性能などの優れた住宅の普及拡大を推進しようと、様々な制度で住宅購入を後押ししています。ですから、どんな制度があるかを知り、自分の場合は何が使えるか、どのような手続きをしていけばよいかをこのシリーズで押さえていきましょう。

住宅の住み替え、買い替えに関する税制

第4回は「住宅の住み替え、買い替えに関する税制」について、ご案内します。

先祖代々受け継がれる家というのもありますが、現代では転職や転勤、ライフステージに応じた住み替えをすることが多くなっています。
働き盛りの世帯においては、コロナ禍の影響で都心から地方の広々とした住宅に住み替えを考える人も増え、それと同時にマイホームを売却することもあるでしょう。
また高齢世帯においては、かつてのマイホームブームで手に入れたファミリー用の住まいを小さめの家に買い替えたり、売却して施設の入居費用などに充てたりすることも増えています。
住宅は生活に欠かせないものですので、その売却や買い替えには税制上の様々な優遇があります。

マイホームの売却で利益が出たときの制度

マイホーム売却で利益が出たときの制度

1)マイホームの売却には特別控除がある

居住用財産(以降マイホームとします)の売却で利益が出たときに使える制度です。不動産を売却して利益が出たときには、譲渡所得税がかかります。しかし別荘や事業用ではなく、生活に欠かせないマイホームの売却で得た利益には特別控除があります。

制度名:居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例

【概要】
マイホームの売却益が3,000万円まで譲渡所得税がかかりません。3,000万円を超えた部分については譲渡所得税がかかりますが、その不動産の保有期間が5年を超えたかどうかで税率が変わります。さらに保有期間が10年を超えた場合は2)で述べる軽減税率が適用可能です。

【手続き】
売却した翌年の確定申告で特例を受けるための申告が必要です。

【制度利用の主な要件】

  • 別荘や事業用ではない、自己居住用の住宅であること。この制度を利用したいがために住んでいたように見せるのは認められません
  • 2)の軽減税率とは併用可能ですが、3)の買い替え(交換)特例とは併用できません
  • この特例を受けると、次の住まいを購入する時に住宅ローン控除を利用できない場合があります

他にも一定の要件があります。参考リンクからお確かめください。

【参考リンク】
国税庁 No.3302 マイホームを売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

2)マイホームの売却には軽減税率がある

マイホームを売って利益が出た場合に、一定要件に当てはまるときは売却益(譲渡所得)に対してかかる税金の計算に低い税率の適用を受けられます。

制度名:居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例

【概要】
所有期間が10年を超えたマイホームを売却して譲渡益が出た場合に、一定要件に当てはまるときは3,000万円特別控除適用後の譲渡所得に対して低い税率の適用を受けられます。

6,000万円以下の部分:14%(所得税10%+住民税4%)
6,000万円を超える部分:20%(所得税15%+住民税5%)(長期譲渡所得の税率と同じ)
※2037年までは所得税に復興特別所得税が2.1%上乗せされます。

【手続き】
売却した翌年の確定申告で特例を受けるための申告が必要です。

【制度利用の主な要件】

  • 別荘や事業用ではない、自己居住用の住宅であること。この制度を利用したいがために住んでいたように見せるのは認められません
  • 1)の3,000万円特別控除の特例と併用できます
  • 売却した年の1月1日において、売った家屋や敷地の所有期間がともに10年を超えていること
  • この特例を受けると、次の住まいを購入する時に住宅ローン控除を利用できない場合があります

他にも一定の要件があります。参考リンクからお確かめください。

【参考リンク】
国税庁 No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm

3)マイホームの買換え(交換)には特例がある

本来不動産の売却で利益が出たら納税しなければなりませんが、マイホームの売却では次の住まいを買う必要があることを考慮して、その譲渡益の課税を繰り延べる特例が受けられます。譲渡益が非課税となるわけではないので注意してください。

制度名:特定の居住用財産の買換え(交換)特例

【概要】
マイホームを売却するのと同時期(売却した年の前年から翌年までの3年間)に、次のマイホームを買う場合はその譲渡益の課税を繰り延べる買い替えの特例を適用できます。

【手続き】
確定申告で特例を受けるための申告が必要です。
特例の適用を受けていた場合でも修正申告と納税が必要になることがあります。

【制度利用の主な要件】

  • 別荘や事業用ではない、自己居住用の住宅であること。以前住んでいた家や敷地の場合は、住まなくなった日から3年たった年の12月31日までに売却すること。
  • 売却代金が1億円以下であること。
  • 売却した年の1月1日において所有期間10年超、居住期間10年以上であること。
  • 1)3,000万円の特別控除の特例または2)軽減税率の特例 とは選択適用になります。

他にも一定の要件があります。参考リンクからお確かめください。

【参考リンク】
国税庁:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm

4)住宅として使用されていた家や敷地を相続して売却した利益には特例がある

住宅の所有者が老人ホームへ入所するなどして空き家になってしまうことがあります。こうした不動産を相続や遺贈により取得した相続人が、その売却により譲渡所得を得た時、一定の要件を満たせば、譲渡所得の特別控除が適用されます。

制度名:相続した空き家を売却する際の特例

【概要】
相続や遺贈を受けて取得した空き家で、被相続人が住宅として使用していた家や敷地を相続人が売却して利益が出た場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除できます。

【手続き】
確定申告で特例を受けるための申告が必要です。
特例の適用を受けていた場合でも修正申告と納税が必要になることがあります。

【制度利用の主な要件】

  • 昭和56年5月31日以前に建築された戸建て住宅であること。
  • 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと。
    故人が老人ホームなどの施設に入居することで空き家になっていた場合も、一定の条件で適用可能です。
  • 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること。
  • 売却代金が1億円以下であること。

他にも一定の要件があります。参考リンクからお確かめください。

【参考リンク】
国税庁 No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm

マイホームの売却で損失が出たときの制度

マイホームの売却で損失が出たときの制度

マイホームの売却や買い替えでは、利益が出るばかりではなく損失が出てしまうこともあります。マイホームの売却で損失が出た場合、税制の特例により損を取り戻せる制度があります。利益が出た時の申告は義務ですが、損失が出た時の申告は任意です。
損失に対して使える制度を知らなかったために、還付できるはずだった税金を取り戻すことができなかったということのないように、該当する場合はぜひ手続きをしてください。

5)マイホームを買い替えて損失が出た時は他の所得と通算できる

不動産を譲渡して損失が出た場合、通常他の所得と通算することはできませんが、マイホームの売却で損失が出るときは、一定の要件を満たしていれば特例を適用して、その年の他の所得から控除(損益通算)することができます。

制度名:居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例

【概要】
購入時に比べて値下がりしてしまったマイホームを売却して次の住まいを購入するときは、前のマイホームの売却で生じる損失(譲渡損失)を給与所得や事業所得などの他の所得から控除できます。(損益通算)また売却した年の所得よりも住宅の売却による損失の方が多く、その1年だけでは損益通算しきれない場合は翌年以降も最長3年間繰り越して控除できます。

【手続き】
特例を受けるための確定申告が必要です。

【制度利用の主な要件】

  • マイホームの売却で譲渡損失が生じていて、新たにマイホームを購入すること。
  • 売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるマイホームを売却すること。
  • 新たに購入するマイホームに10年以上の住宅ローンがあること。

他にも一定の要件があります。参考リンクからお確かめください。

【参考リンク】
国税庁:No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3370.htm

6)住宅ローンの残高を下回る価格でマイホームを売却して損失が生じた時には特例がある

マイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失が出るときは、一定の要件を満たしていれば特例を適用してその年の他の所得から控除(損益通算)できます。

制度名:特定の居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

【概要】
住宅ローンが残るマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)できます。さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以降も3年間繰り越して控除(繰越控除)できます。
5)と異なり売却後に次のマイホームを取得しない場合であっても適用できます。

【手続き】
特例を受けるための確定申告が必要です。

【制度利用の主な要件】

  • 別荘や事業用ではない、自己居住用の住宅であること。以前住んでいた家や敷地の場合は、住まなくなった日から3年たった年の12月31日までに売却すること。
  • 所有期間が売却する年の1月1日において5年を超えていること。
  • 売却価格が住宅ローン残高を下回っていること。
  • 売却した年の前年および前々年に買い替え特例や3,000万円の特別控除などを利用していないこと。

他にも一定の要件があります。参考リンクからお確かめください。

【参考リンク】
国税庁:No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3390.htm

公開日:2022年08月26日

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株式会社イー・カンパニー提携ファイナンシャルプランナー小峯洋子さん

小峯洋子(こみねようこ)

(株)イー・カンパニー提携ファイナンシャルプランナー

AFP®、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、2級DCプランナー、2級建築士
不動産会社、住宅メーカーで設計部勤務を経て、夫の転勤により一旦退職。
第2子の乳児期にファイナンシャルプランナー資格を取得し、設計事務所勤務をしながら2014年にFP事務所を立ち上げた。自らの子育てを通じて、子どもの頃からお金と上手に付き合うトレーニングが必要だと感じ、楽しみながらお金に関して学べる親子向けの講座を開催している。教育費や住まいに関わるお金の相談や記事執筆も行っている。共著に「ゼッタイ後悔しない!家の購入技200」(スタンダーズ株式会社発行)など。

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