金継ぎのきらめきで愛おしい食器に生まれ変わった

金継ぎのきらめきで愛おしい食器に生まれ変わった

スマイルすまい編集部

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手づくりの楽しみ 金継ぎ編 vol.3

金継ぎ(きんつぎ)とは、破損した器を漆で接着し、金粉などを使って装飾する日本独自の修復方法。金繕い(きんつくろい)とも呼ばれます。茶の湯が盛んになった室町時代に始まったといわれますが、近年になって、物を大切に使い続ける精神が見直されてきたこと、また、漆の代わりに市販の接着剤を使う簡易的な方法も登場したことで、身近な修繕技術として注目を集めています。

今回、「手づくり部員」が訪れたのは、金継ぎ作家・漆芸家の深澤勇人さんのアトリエ。初心者でも簡単に体験できる「簡漆金継ぎ」に挑戦してきました。3回シリーズの最終回は、漆を塗った部分に金を蒔(ま)く作業。果たして、結果は!?

【手づくり部とは】
ハンドメイドやDIY好きのスマイルすまい編集部員が集まってできた、手づくり大好き集団。毎号、記事を通して「手づくりの楽しみや、自分で作ったものを使う幸せ」を皆さまにお伝えしていきたいと思います。

漆に金を蒔いて定着させる

手づくり部 いよいよ金を蒔く工程ですね。これは本物の金ですか?

真鍮(しんちゅう)を使った代用金

深澤さん いえいえ、本物は高価なのでなかなか手を出せません。今回は、真鍮(しんちゅう)を使った代用金を使います。このほか、銀や錫(すず)などを使うこともありますよ。

手づくり部 純金でないと聞いて、少し肩の荷が下りました。

深澤さん では、多めにすくった後、半乾き状態の漆の上に満遍なく落とし、筆でさささっと刷(は)いてください。

金を筆でさささっと刷く様子

手づくり部 はい。どうしても漆の部分以外にも、掛かってしまいますが、いけないでしょうか?

深澤さん 構いません。金粉は、漆が硬化するとともに定着していきます。完全に定着した後、水を流すことで、漆以外のところに付着した粉が洗い流され、漆の部分だけに残るという仕組みです。

手づくり部 なるほど。では、今の状態と印象が変わるのですね。

深澤さん その通りです。続いて、マグカップの方も金粉を落としてください。漆を塗った部分は細いですが、同様に、余り気にせず大胆に蒔いていただいて構いません。

マグカップの方も金粉を落としている様子

手づくり部 できました!

金を落としたお皿とマグカップ

漆が硬化するためには湿気が不可欠

深澤さん これで作業は終了ですが、漆が硬化し安定するまで1週間ほど寝かせる必要があります。

手づくり部 そんなにですか。すぐに結果が見られないのは残念ですが、「待つ」ことも大切な工程ということでしたよね。

深澤さん そうです。しかも、漆を硬化させるためには水分中の酸素が必要です。独特の化学反応によるもので、そのため20度以上の気温と、70%程度の湿度が必要になります。

手づくり部 乾かすのに湿気は大敵と思っていましたが、逆なのですね。でも、季節によっては家の中が乾燥していますし、どうしましょう。

深澤さん 簡単な方法があります。段ボール箱に水をしみ込ませた布を入れて、しまっておくだけ。これが室(むろ)の代わりになります。

手づくり部 これでしたら、誰でも作れますね。では、ここに入れてと。1週間後が楽しみです。

段ボール箱に水をしみ込ませた布を入れてお皿とマグカップをしまう様子

深澤さん お預かりしておきます。

1週間後、果たして、仕上がりは?

手づくり部 1週間のご無沙汰です。アトリエに戻ってきました。どうなっているか楽しみです。

深澤さん お待ちしていました。早速、段ボール箱から取り出してみましょうか。

1週間後のお皿とマグカップ

手づくり部 見た感じ、1週間前とあまり変わりませんね。

深澤さん では、水で洗い流してみてださい。どのように変わるか楽しみです。

手づくり部 はい。割れてしまわないかドキドキ。本当に漆の部分だけに金が定着するのか、という不安もあります。

マグカップを水で洗い流している様子

手づくり部 うわーっ、とてもきれい。金色のラインがはっきりと出ていますね。これは感動的です。

金色のラインがはっきりと出たお皿とマグカップ

深澤さん とてもステキだと思いますよ。やはり白い食器は金が映えますね。

手づくり部 ありがとうございます! 持ち帰って、家族や友人に見せてみたいです。

深澤さん 今回、金継ぎを体験してみていかがでしたか?

手づくり部 物を大切にしなければ、という気持ちを新たに持ちました。実は、割れた破片がくっついた瞬間から、「壊れた食器」がいとおしい物に変わっていました。これを捨てよう、なんて気には絶対ならないですし、このいとおしくて温かい感情は、新しい物を買うことでは味わえないな、と思います。

深澤さん そう感じていただけてうれしいです。

手づくり部 はい。それに、捨てられなかったとはいえ、「壊れた食器」を持ち続けているのは、なんだか心に重みを背負っている気分でした。それが、このようなステキな物に生まれ変わったことで、心がフッと軽くなったような気がしています。

深澤さん 心の持ち方まで変わったというのであれば、私にとっても喜びです。今度は、漆だけを使って接着する本格的な「本漆金継ぎ」を学びに来てください。手間はかかりますが、何日もかけて一つの器のことだけを考えることって、日常生活ではまずありません。さらに奥深い漆の世界が実感できるはずですよ。

手づくり部 ぜひ挑戦させていただきたいと思います。

深澤さん 最後に注意点をいくつか。修繕した器は、電子レンジや食器洗い乾燥機などでは使えません。他の陶器と重ねたり、金属製のナイフやフォークを使ったりすると破損する恐れがあります。同様に、クレンザー等の研磨剤、硬いスポンジ、タワシは使わないでください。気を付ける点は多いですが、基本的には漆器の取り扱いと同じです。

手づくり部 分かりました! たっぷりと時間をかけて直した器なので、大切に、やさしく使っていきたいと思います。今回は本当にありがとうございました。

講師:深澤勇人さん

講師:深澤勇人

東京芸術大学工芸科漆芸専攻卒業後、同大学文化財保存修復彫刻研究室技術スタッフとして仏像の修復などに携わる。東京国立博物館にある修復所で漆工芸品の制作や、全国各地の寺社等における漆塗りや宝物制作に参加。漆芸家、金継ぎ作家として活動する傍ら、ウェブサイト「金継ぎ図書館 鳩屋」を主宰。金継ぎに関する指導、普及に努めている。

公開日:2017年07月31日

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